胸の奥の灯に、そっと火をつけよう(1)


 突然ふと、過去の一場面を思い出しました。


まだ十何年か前に、笠原さんのファンだった、その最後のほうの時期のことで、
確か「MY BEST FRIENDS」のCD発売記念イベントだったと思います。


そのとき、笠原さんが生で「コンディション・グリーン」を歌われたのですが、
前のほうにいたファンの集団が、やたらに叫ぶのです。
まるでアイドルの親衛隊のようなダミ声で、サビの「Fly Fly Away!」あたりは
もちろん、最後には声を合わせて「L・O・V・E ヒ・ロ・コ!」と連呼していたのです。


・・・その時、その合唱にものすごい違和感を覚えた、一瞬の記憶が突然に甦りました。


それはまったく、「アイドルとその親衛隊」のようでした。
まあ笠原さんが登場したとき「ひろこちゃーん!」と
声援を送る人達は昔からいましたが、それとはまったく異質な雰囲気だったのです。


既にその少し前から、古くからイベント会場などでよく顔を合わせるファンの人たちとは、
「最近の新しいファンのノリには付いていけないなあ」などと話していた気がします。
しかし今になって思えば、そのようなノリこそが、
その後の声優のアイドル化への先触れだったのでしょうね。


ただ、私はそのノリには、付いていけませんでした。。。


ちょうどその頃は、CD屋でアルバイトを始め、
否応無く多くの幅広い音楽に触れることになっていった時期ですから、
そういった私自身の音楽の嗜好が変化していく方向と、
まるでアイドル化していくかのように感じられた、
笠原さんの立場とが、相容れなくなってきていたのだと思います。


そして、その後もしばらくはアルバムCDこそ買っていましたが、
だんだんとそれを聴くこともなくなり、フェードアウトしていきました。


きっと決して笠原さんの「歌」や「音楽」をキライになったわけではなく、
彼女に付けられた「アイドル声優歌手」のようなレッテルと、
そのように彼女を持ち上げて取り扱う、周りの風潮や態度に、
馴染めなくなったということなのでしょうね。。。


笠原さんの歌があんなに好きだったのに、
なぜいつの間にかファンを辞めてしまったのか、
自分でもあまりよく説明が付いていなかったのですが、
いま、その「コンディション・グリーン」に合わせて叫ぶファン達の場面と、
その時の気持ちを思い出して、少しは説明が付いたような気がします。


その後の長いブランクを経て、
再びいま、あの頃と同じ笠原さんの歌を聴きながら、
その歌声に癒されながら、私は毎日を過ごしています。


そうしてその歌声は、こうしてしばしば「Nostalgia」のように、
もしくは「スローガラス」を通して甦った光景のように、
胸の奥に忘れていた懐かしかったり、苦かったりする、
様々な当時の記憶を映し出してくれるのです。