「Holy Chain 〜聖なる鎖〜」(2004年) (その2)


 そういえば、この 「Holy Chain」には、
いわゆる「ラブ・ソング」が一曲も無いのですね。


「わたし」がいて「あなた」がいて、
その2人の恋愛関係を語るような歌、がひとつも無いのです。


だいたい、今のJ−POPでは、
歌といえばラブソングが基本みたいなところがあります。
「恋愛」という状況にはドラマチックな要素が多くあり、
心の表現としての詞やメロディの題材に取りやすいから、
ということが主な理由でしょうか。


まあ、「恋愛」という誰にでもある普遍的なものを歌ったほうが、
多くの人の心に共感を得やすい、ということで、
商業的にヒットを狙うための題材としてよく採用される、
という大人の事情もあるのでしょうけど・・・。


笠原さんのオリジナルアルバムでも、
ラブソングの曲数はいつもかなり多いです。


デビューアルバムの「スローガラスの輝き」では、
11曲中、「INTERFACE」以外の10曲はラブソングといえますし、
最新の「H・K」でも6曲中、「My Best Friend」以外の5曲はそうです。


それが、この「Holy Chain」では0曲です。
松宮先生の幻想シリーズには、以前から恋愛の歌以外の名曲も多かったですが
(「アンモナイトは夢を見る」「セコイア幻想」「Siesta」などなど)、
それにしても一曲も無いというのは珍しいことでしょう。


しかし身近な「恋愛」というものではなく、
もっと大きな「愛」というものを考えたとき、
このアルバムのテーマは、まぎれもなく、それであると思うのです。


「聖なる鎖」「巫女」「預言」、ジャケットの言葉からも、
このアルバムに込められたテーマを読み取れるような気がします。


生きているということ。今ここに存在しているということ。
同様に、この世界に存在する(存在した)たくさんの生命。
それらは繋がり合い、互いが互いを支えあって生きていく。
その繋がりの中にある優しさ・愛情のようなものが、「聖なる鎖」。
この世界の、すべては、果てなく、そして優しく、繋がりあう。


個人と個人の恋愛感情だけではなく、
それをも含めた、もっと大きな視点での「愛」をテーマにしたアルバム。


今の時点での「聖なる鎖」の印象は、こんな感じです。
松宮先生が、「歌で祈りを伝える巫女のよう」と表現された笠原さんに、
久々に託した作品だけあって、壮大で美しい、見事なテーマだと思います。